人気ブログランキング | 話題のタグを見る

BOOKUOKA~角田光代・田中慎弥トークリレー

少し時間が経ってしまいましたが、世界文学に続いて、トークリレーを聞きに行きました。

角田光代の作品は、最近はあまり読んでいませんが、デビュー当時はよく読んでいました。『八月の蝉』あたりから少しタッチが変わってきたなあと思っていました。しばらく読んでいませんでしたが、何しろ同世代、神奈川出身ということで興味がありました。

田中慎弥は言わずと知れたあの会見で強烈なインパクトを受けていたので、これまた興味がありました。この人の作品は読んだことがないので、本当は失礼なのでしょうけれど、会見とは別に、書くということ=生きていくことといった姿勢が伝わってくるので、受賞以来、作家としてとても気になっています。


「私たちが惚れた主人公」というテーマで、それぞれが惚れ込んだ主人公を5人あげる、というトークでした。
対談式で相手は西南学院大学の先生。この先生はおもしろいんだけれど、あんまり上手じゃなくて、なんだか角田光代が始終気を使っていて、結果的にいちばん目立っていました。オプション的なおもしろさでした。

さて、本題です。田中慎弥の選んだ5作品は以下のとおり。

「栗山千明」(篠山紀信撮影の写真集)
「雪国」川端康成
「春琴抄」谷崎潤一郎
「ゴドーを待ちながら」ベケット
「源氏物語」与謝野晶子訳・谷崎潤一郎訳・瀬戸内寂聴訳

ひとつずつ説明してくれて、その丁寧さと真剣さにはまったく惚れ惚れしました。
本当は全部書きたいくらいなんだけど、キーワードは「見えない、もしくは、描かれてはいないけれど“いる”あるいは“ある存在”」なのだそうです。
田中慎弥は子どものころにお父さんをなくしていて、いないけれど、いたから自分がいる、ということをずっと考え、その目に見えない存在が作品に影響しているということを繰り返し言っていました。それを神と呼んだり、希望と呼んだり、光と呼ぶこともできるかもしれないけれど。といった表現です。

気になって読み返したのは、「雪国」。正直に言うと、駒子のわがままさというかハチャメチャさはついていけない感がありました。田中慎弥は、「女性は怖くて強くて美しい」イメージがあるといっていましたが、それを体現している駒子に惚れたのでしょう。読んだ直後は、ほんとなんて勝手な主人公なんだろう、思っていのですが、時間が経つにつれて駒子の影の部分が、胸のあちこちに引っかかっているかのように、ふとした折に駒子の印象を追ってしまっているのです。主人公。ひどく勝手な振る舞いで男を振り回しながらも、とても壊れやすくて、しかしそのことが直接描かれていない。香り、とか、余韻という肩書きを持つ女性のようでした。
同じように印象的だったのは、ふたりにはたしかに性的な関係があるはずなのですが、性描写はいっさいない。ただ「この指が覚えている」という表現だけで、描かれなかった空間が表現される官能に驚かされました。私にとっての「雪国」は、描かれなかった世界を表現した作品と言えるかもしれません。



角田光代には、どういうわけか「ヒーロー」で選ぶように言われていたらしく、以下のとおり。

「龍」RON(「仁」を書いた作者によるコミック作品)
「あしながおじさん」ウェブスター
「ホテルニューハンプシャー」(フラニーの弟)ジョン・アービング
太宰治
忌野清志郎

「ヒーロー=自分を救ってくれる人、言葉」といった定義をしていました。
一番読み返したいと思ったのは「ホテルニューハンプシャー」。絶対持ってる、と確信して帰宅したら「ガープの世界」があり、「ホテルニューハンプシャー」はこないだ手放したかもと落胆。近々絶対に手に入れなくちゃとブックオフに行ったら上巻しかありません。ううう。いつの日か必ずや下巻も手に入れてどっぷりと浸りたいです。

「忌野清志郎はなぜ?」という問いには、「ブレない。だけど変化を恐れない」と答えていて、いたく共感しました。原発事故以来、清志郎の歌をいろんな人が歌ったり再評価されたりしているのを見て、不思議な心持ちになっていました。私が清志郎の歌を聴いていたのは、RC SUCCESSIONの初期から80年代の終わりころの作品で、それ以降はあまり聴いていません。

司会の人が「原発事故以来、また注目を集めていますが…」というと角田さんが「いやいや、私はそうじゃなくて、そうじゃないんですよ、それとはちがうんです」と言っている姿がとてもよかった。反原発の姿勢に異議があるのでわけではなく、あの時代(1980年代)に青春期を過ごして清志郎に触れた感触を、この人は大切にしているというのが伝わってきて、それは私が抱いている清志郎への思いと似ているようなのです。
あくまで個人的な感想ですが。
清志郎は私にとってもヒーローです。彼の詩には幾度となく救われている。救われ続けている。


ブックオカは終わりました。

でも、ふたりがピックアップした主人公に会う旅はまだ続いていて、今も上巻だけの「ホテルニューハンプシャー」の表紙を眺めながら楽しんでいます。

来年のブックオカもまた楽しみです。
by kakunobue | 2012-11-19 16:51 | 読書日和

かくのぶえ フリーライター 日記・エッセイ・詩・イベント情報・こどもメッセージ集。


by kakunobue