砂糖と黄身と小泉今日子

昨年からお菓子作りを始めた。
もともとはガトーショコラとフランボワーズムースが好物で、これくらいはつくれるようになりたいと思ってのことだったのだが、カフェが始まるとそこでお出しするスイーツを2品は作りたいと思うようになり、試作も含めてかなりの頻度で作るようになった。

以前からそうなのだが、料理をする時に音楽がかかっている状態が好きだ。
秋の夕暮れのキッチンに立つときは、なんとなくマンボ・キングスを選んだり、そうやって料理しながら遠くに住む人のことを思い出して祈ったり、何か音楽と料理が融合すると動かす手に気持ちがこもるような気がするのだ。昨年の今ごろは、寮母さんへの感謝の集いを催したのだが、そのときにふたりの学生がギターを弾きながら「歌うたいのテーマを」歌っていて、それに合わせてオムレツを作っていた私は、至福の喜びを堪能した。

タイトルの本題に入ろう。
年末に、ケーキを焼こうとして材料をそろえながらCDのセレクトをした。
同世代のアイドル小泉今日子はその演技や存在感が好きで、彼女の出る映画やドラマはよく見てきたし、彼女の書くエッセイ集はほとんど手に入れ、折りにふれてよく読んできた。
ただし、彼女の歌だけはどうにも聞くことができなかった。ブレスの音が気になる。声の甘さが気になる。のだ。
それでずっと聞かず嫌いだったのだけれど、ふとしたことからいただいた小泉今日子のCDを何気なくこのときに選んでしまった。「あなたにあえてよかった」が入っていたのだ。声はあんまり好きではないけれど、この曲の歌詞を確かめたかったからだった。

卵の黄身をといて、グラニュー糖を加えて混ぜるときのここちよさはたまらない。
私は今、世界で一番美しい宝石をこのボウルにひとり占めしている、という気持ちになる。
幸せというのはこういう色をしているのだろうな。
あまったるくて、そして、誰もが心を満たされるようなエネルギーを持っていて。

ふと、そこに小泉今日子の声が流れ込んできた。
あ、すごくいい!

お菓子とかケーキとか。
気軽に食べて、一瞬に幸せになって、なんとなくがんばろうって気持ちになる食べ物だけれど、作られる過程にはたくさんの手が加えられている。何かと何かを合わせて混ぜて、エネルギーを加えて、さらに空気をふくませたり、細かくふるったりして、そのひとつひとつの過程を経て作り上げられていく。

小泉今日子の声を聴きながら、ああ、この甘ったるさのなかに秘められたこまごまとした過程を私は聴こうとしていなかったな、と思った。
いや、聴かなくていいんだけれど。
なんというか、仕上がりを楽しもうとしていなかったなという方が的確かもしれない。

お菓子を食べるときの「あ、おいしそう。かわいい。おいしい!」という気軽さで聴くと、すごくいいのだ。おそらくそれは、そのこまごまとした過程に裏打ちされているからなのだけれど、深刻に歌のなんらかを聴くようなことではなくて、さくっと聴いて、その時の気分を楽しませてくれるなら、それでいいんじゃないのか?というようなことを感じたのだった。
彼女の歌はケーキのように素敵で、そして、耳においしかった。

それでね、気づいたのですよ。
ブレス音も甘ったるい声も。それだってすごく練習したり、いろんな苦い経験をしたり、さまざまなところから圧というエネルギーを加えられたりしながらできあがっていったものなんですよね。それでも甘さが残っているというのは、ある方向から見れば、ものすごく素敵なことなのではないかということに。

人の声について好き勝手に書いたけれど、ブレスと声の甘さは、なにを隠そう私の歌の、長年来の課題でもあります。それも受け入れつつ、やっぱり歌っていくしかないし、それでもよろこんでくれる方がいらっしゃるなら、幸せなことです。

さて、次は何を作ろうかな。
そして、なにを聴こうかな。
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Commented by Risa at 2014-01-29 16:08 x
のぶえさん、お久しぶりです!
芽音〜めのん〜のりさです!
いやぁー、なんかとても良い記事ですね♡心がほっこりしたのと、納得とゆうかしっくりくる内容でした。
Commented by kakunobue at 2014-01-30 14:24
りさちゃん!おげんきですか?もうライブもやっているのですね。すごいねえ。私の友だちにもりさちゃんの声を聴いてもらいたいので、今度、東京でやる時は広くインフォメーションさせてもらいますね。
りさちゃんの歌にはたしか、彼と食事をする歌があった気がします。すごく好きだったなあ。あ、お友だちの結婚式に歌った歌だったかな。ボーカリストは体が楽器なので、メンテも必要だし、ちょっと怠るとまただいぶ積み直さなければならなかったりするけれど、少しでも目指しているところに近づけられたらいいですよね。
またりさちゃんの歌、どこかで聞くことができますように。
コメント、ありがとうございました!
by kakunobue | 2014-01-24 11:48 | エッセイ | Comments(2)

かくのぶえ フリーライター 日記・エッセイ・詩・イベント情報・こどもメッセージ集。


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